大学院を志望する人に

牧野 2000/4/5
Update 2008/6/21
Update 2016/12/13

ここでは、一応私たちのグループの研究や、大学院での研究生活はどんなもの かといったことについて思いつくままに書きます。詳しくは、牧野まで聞きに 来るか、六甲台自然科学3号館3Fまたはポートアイランドの統合拠点3Fまたは 同じくポートアイランドの理研AICS の牧野の研究グループのところまで遊びに来て下さい。

というわけで、

どんなことを研究しているのか

分野としては天体物理学ということになります。きわめて大雑把にいえば、宇宙にある様々な天体について、それらがどのようにしてできて、なぜそこにあるのかということを、主に理論的な手法で研究するということになります。

具体的なテーマは、例えば

といったものです。これらの問題は、第ゼロ近似としては自己重力多体問題、つまり、主に重力だけで相互作用する粒子が多数集まってできてるシステムはどのように振舞うのかという問題になります。つまり、式としてはニュートンの重力法則と運動方程式だけで記述できるのですが、初期条件、タイムスケールの違いにより極めて多彩な天体現象が生まれてくるわけです。なお、ここ10年くらいは、多体問題だけではなく流体が関わる問題にも徐々に力をいれています。

こういうものをどうやって研究するかということですが、自己重力多体問題では粒子数が3以上になると特別な場合を除いて解析解はないので、多体問題自体に解析的にアプローチするという方法ではあまりたいしたことはできません。したがって、

といったことが基本的な研究の進め方ということになります。

さて、そういうわけで、「計算機実験」というのが重要な研究手段ということになります。計算機実験では、基本的には計算機の中に銀河とかの重力多体系のモデル(要するに連立微分方程式)を実現して、それを数値的に解くわけです。計算機はもちろん普通に売っているパソコンとかも使いますが、自己重力多体問題の場合には、それ専用に計算機を作ってしまうとふつうの計算機よりもずっと得になります。得というのは、要するにより速く計算ができる、あるいは同じ時間でたくさんの粒子を使った計算ができるということです。

多数の粒子を使うというのは実は非常に大事なことです。例えば銀河は、恒星だけで例えば 1010個、それ以外になんだかわからないダークマターとか、星間ガスといったものがあります。計算機でこの一つ一つの星を全部表現して計算すれば、かなり信用できる答がでてくることが期待できるわけですが、これはまだ今後10年や 20 年のうちには難しいです。そうすると、手を抜くために例えば星の数を 1万個とか 10万個ということにして、太陽の100万倍の重さの星が1万個集まったものとして銀河をモデル化するわけです。

これを難しくいうと「モンテカルロサンプリングによる離散化」ということになるのですが、ともかくこのようなある意味いい加減なことをすると、どうしてもその分答が違ってきます。従って、それでも正しい答がでると思える問題しか研究できないということになってしまいます。そうすると、そういうのはもう誰かがやっているとか、そういうことが多くなります。それだけならいいのですが、正しい答がだせるかどうかというのはそれほど簡単にはわからないので、どうかすると間違った答を出してしまうということになります。

計算を速くして粒子数を多くできれば、それだけ答が信用できるし、またその結果研究対象も広がります。これは、結局普通の実験と同じことで、より良い実験装置があれば他の人にはできない研究ができるということです。

というわけで、他にはない実験装置として、我々は自己重力多体問題専用計算機を作るということをやってきました。「計算機を作る」というと難しいような気がするかもしれません(そうでない人もいると思います)が、要するに実験装置ですから、天文観測データの取得/処理用の電子回路を作るのとさして変わりません。

専用計算機といっても、我々が作っているのは、重力多体問題の性質を生かした特別なもので、「粒子間の重力だけを計算する」というものです。実際に星の軌道を積分するとかは、 専用計算機につないだワークステーションやパソコンの方で行ないます。 最近では、半導体産業の状況変化もあり、「自己重力多体問題専用」では研究 が難しくなってきているので、もうちょっと汎用的なもの、また、 計算量が多い重要な応用である深層学習向けに最適化したもの等も開発しています。

計算機実験の場合、「実験装置」というのは計算機ハードウェアとソフトウェアの両方です。業界によっては、専門の会社が開発しているプログラムをお金をだして買ってくれば必要な ソフトウェアがそろってしまうということもあるようですが、天文学の場合はまずそういうことはありません。また、いままでに他の人がやったことがない新しい対象を研究しようとすれば、そのための数値計算の方法自体を新しく開発しないといけなかったり、また方法自体はあってもプログラムは新しく作る必要があったりします。そういうわけで、新しい計算方法をいろいろ考えて開発するというのも重要な研究の一部になります。

どんな人がいるか

とりあえず メンバーリストを見て下さい。

卒業研究や大学院での研究はどんな感じか

これは、私がどう思うかというのと実際に学生である人がどう思うかというのはどうしてもずれがありますから、以下は私の主観的なものだということには注意して下さい。学生の側からみた実態は上のメンバーリストでホームページを見たり、あるいは直接聞いてみたりして下さい。

大学院は、基本的には「研究する」とはどういうことかを身につけるところであると私は思っています。ここで「研究する」というのは必ずしも天文学の研究をして論文を書くというだけのことではなく、もう少し広い意味でとらえて下さい(具体的にこれこれというのはなかなか難しいです)

研究するわけですから、具体的な研究テーマをまず決めることになります。これは基本的には相談して決めます。ただし、私のつもりとしては、大学院生が修士で最初にやったテーマをそのまま5年間続けていくということはあまり考えていません。もちろん、一つのテーマからやることがどんどん広がっていく場合もありますし、またそれまでにやっていたことから多少毛色の違うことにも手を出してみるという場合もあるわけですがいずれにしてもそのように大学院の間に研究の幅を広げることは非常に大事なことです。

さて、テーマが決まると研究生活に入るわけですが、大学院生としての研究するというのは、一般に非常に大変なものです。というのは、研究というのは今までに他の人がやってない新しいことをするわけで、したがって「うまくいくとは限らない」からです。大学の学部生までの勉強では(卒業研究は多少は違いますが)、基本的には「教科書に書いてあることを理解し」「問題を解く」ことができればよいし、また、極端ないい方をすれば理解していなくても問題さえ解ければよかったわけです。

ところが、研究では、まずそのテーマの正解がどんなものかは誰も知らないわけで、何か本を見れば答がわかるというわけにはいきません。さらに、当然のことですが指導教官も答を知っているわけではありません。さらに話をややこしくするのは、研究を進めていくのに必要な知識や技術をあなたはまだ持っていないし、私も持っているとは限らないということです。もちろん、テーマを決める時に私のほうでは「これはどれくらいでできそう」というある程度の予想はするし、そのためにはどんな知識や技術がいるかというのも大体見当はつきます。ですから、そのために参考書や論文を紹介したり、あるいは必要に応じて助言するといったことはもちろんします。が、それらが(大抵はあっているつもりですが)正しいとは限らないということもあるわけです。

で、まあ、研究する上では、そういう必要なことを自分で勉強できるというのがかなり大事なことです。これはあんまり「王道」というのはなくて、やはり自分でやって、そのやり方でうまくいっているかどうか自分でも考え、人にも聞いてみるというようなことで身につけていくしかありません。

「大学院というのはどういうふうに研究するかを教えてくれるところじゃないの」と思うかもしれませんが、うーん、多分、そうじゃないんです。というのは、どういうふうに研究するかというのは人それぞれだから、自分はどういうふうにやるかというのを自分で見つけるしかないからです。

話が妙に抽象的になりましたが、もうちょっと具体的に。上に書いたように、我々のグループでは主に自己重力系として表されるような天体現象について計算機実験を道具に、、、ということで、天体現象自体の研究、計算機や計算方法の開発をやっています。理想的には、そのすべてを大学院の間に経験するというのがいいかもしれませんが、予備知識・興味によって天体現象を主にやる人、ハードウェア中心の人とある程度分かれる傾向にあるようです。

ハードウェアの場合は、メインの開発プロジェクトがあるので、どこかその一部を分担という性格が多少出てきます。従って、ある程度、きちんとやればできることは保証されている反面、きちんとやることが要求されるということになります。

天体現象を扱うという場合にも、現在ホットな題材を扱うことが多いため、そういった場合にはある程度まではやればできる(まったくなんの見当もつかないようなテーマをというのは稀)という面が出てきます。これは、逆に、世界でほかの誰かが似たようなことを考えているかもしれないということでもあります。そうなると競争ですから、あまりのんびりやっていると他の人に先を越されるということになります。

なお、「研究」というのは、それがハードウェアやソフトウェアの開発であっても、論文にまとめて出版して初めて完成したことになります。従って、大学院生の間になるべく多くの論文をまとめるという方向で研究指導していきたいと思っています。その方が学振を通りやすいとかいったプラクティカルな理由もありますが、それだけではありません。やったことを整理し、それがなにであり他の人のこれまでの仕事に対してどう位置付けられるのかということを理解することが、次に進んでいく上で非常に大事なことだからです。

このために、修士ではわりと早く結果が出せそうなテーマをやるほうがよいと思います。博士では多少じっくり構えてもいいですが、そのためには修士の後半くらいからはすでに博士のテーマに掛かるというつもりでいないといけません。

なお、特に天文学の研究者を目指そうという場合には、「就職」という問題があります。これはなんだかよくわからないもので、例えば、大学院の間に優れた業績をあげて沢山論文を書けば必ず就職が見つかるかというと、そんな簡単なものではありません。とはいえ、 大学院の間にまったく論文を書かないで就職できるかというと、これは非常に難しいのはいうまでもないことです。

ただ、極めて一般的な傾向として、天文学の理論の研究者として就職するというのは非常に難しいことです。これは、単にそのようなポスト(仕事)が少ないからです。観測の方がポストが多いかというと、大学院生の数に対する相対的なものとしてはそういう傾向はあるようです。将来、理論の研究者を目指すなら、

といったことを多くの場合に考える必要があります。また、就職に関しては指導教員のコネとかそういったものも無視できないので、そういうコネがなさそうな人を指導教員に選ぶ前には良く考えた方がいいかもしれません。

とはいえ、結局のところ大事なことは大学院生の間にどんな研究をするかとい うことです。で、そのためには、どうやって指導教員とテーマを選ぶかというのは非常に大事なことです。教員や院生に話を聞くというのはだれでもすることと思いますが、それ以外にその研究室でどんな研究がなされているのかを ADSのようなデータベースなども活用して調べてみるといったことも大事です。

と、まだ書くべきことはありますが、とりあえずはこのへんまでで。