next up previous
Next: 2 原始星天体の観測 Up: 無題 Previous: 無題

1 はじめに

星形成過程の研究は、天文学の中でひとつの大きな柱をなす重要な分野である。 しかしながら、原始星と呼ばれる形成途上の星が周囲のガスから質量降着を得 て成長していく過程は、現在においても未解明の点が多い。 これは、原始星が周囲の降着ガスに囲まれて直接観測することが難しい こと、および進化のタイムスケールが比較的短いために十分な数の原始星天体 が見つかりにくいという理由による。 しかし近年、サブミリ波や遠赤外線領域の観測技術の進展にともない、 激しい質量降着が進行中であると考えられる天体が数多く発見されており、 質・量ともに充実した観測データが蓄積されつつある。

一方、これらの観測データを解析する上で求められる理論モデルは、 現在のところ極めて不十分である。 原始星形成過程の理論的研究は、60年代後半から80年にかけて 精力的に行われ、一定の成果を出して決着を見た (e.g., [1], [2], [3], [4])。 しかしながら、原始星の観測的知識が非常に乏しかった当時においては、 観測データによる理論モデルの実証は事実上不可能であった。 観測における問題意識は近年着実に具体化されてきている一方で、 理論モデルの側がそのニーズに答えられる形で進化してきたとは言い難い。 原始星形成過程のシナリオを完成させる最後の飛躍に挑むために、 今日的な原始星形成理論モデルの構築は急務である。

以上の問題意識に基づいて、 本論文では球対称輻射流体力学数値計算による原始星形成過程を追跡し、 最新の観測成果を説明する新たな原始星形成シナリオを提案する。 輻射場を数値的に扱う際、しばしば用いられる拡散近似を仮定せず、 Variable Eddington Factor法を用いて光学的に厚い領域から 薄い領域に至るまで輻射場を厳密に扱う計算を行っている。 また、ダストの温度とガスの温度を別個に取り扱い、さらに 周波数依存性を考慮した輻射輸送方程式を解くことにより、 力学進化に伴うエネルギー・スペクトル(SED)の進化を 追うことに成功した。

以下に、観測による原始星天体の理解の歴史的推移および 計算結果の概略を述べる。



Jun Makino
Wed Mar 17 18:18:50 JST 1999