1980年代後半、IRASによる星形成領域の観測により、 近赤外ないしは中間、遠赤外領域に大きな超過の見られる点源が 多数発見された。 これらの前主系列天体は、赤外域のSEDの傾きから 以下のように分類されている([5])。
ここでaは、近赤外から中間赤外にかけてのフラックスから
見積もられるSEDの傾きである
(
)。
class IIおよびIII天体は、T Tauri型星からの可視放射に原始惑星系円盤からの
赤外放射が足されたものとして解釈できる。
一方class I天体は可視光では検出されず、遠赤外域でもっとも強い放射を
放つという特徴を持ち、
中心の原始星が周囲のガスエンベロープからの
質量降着を得ている段階にあると考えられている。
実際原始星表面からの可視放射がエンベロープで吸収・再放射される様子を
モデル化した理論計算により、class I天体のSEDがうまく再現できることが
わかっている([6], [7])。
質量降着により成長した原始星がT Tauri型星を経て主系列星に進化するという
星形成過程の描像に従い、class I,IIおよびIII天体は、この順に前主系列天体
の進化の系列を代表すると考えられている。
一方90年代に入って、class I天体はガスエンベロープから原始星への質量降着が おおむね終了しつつある天体であることが明らかにされてきた。 この事実を受けて、André, Ward-Thompson, & Barsony(1993)は まだ力学的な成長段階にある原始星の候補天体(VLA 1623)の発見を報告した。 VLA 1623はダスト連続波で2000AU程度のコンパクトなクランプを形成するが、 可視点源はおろかIRAS赤外源すら付随していない。 しかし、この天体から駆動されている双極分子流が見つかっており、 これはVLA 1623が活発な原始星天体であることを強く示唆している。 中心の原始星は非常に光学的に厚いエンベロープに遮られているために検出できない と考えられ、まだエンベロープから原始星への質量降着が十分に進んでいないと 推測される。 Andréらは、このような若い原始星天体の位置づけとして、class I天体よりも 若い段階にあるという意味で「class 0」天体という新たな分類枠を提案した。
ところが、成長途上にある原始星を観測と比較可能な形でモデル化する理論研究は、 上述のように極めて不十分であり、 class 0天体の進化上の位置づけは必ずしも明確ではない。 とくにclass I天体をエッジ・オンで観測した場合、 柱密度の高い円盤面に原始星が隠されclass 0として観測されるはずであり、 この場合はclass 0と言うカテゴリーは必ずしも天体の進化段階に対応しない。 私の研究は、class 0天体の進化的位置づけを明確にすることを含め、 観測天体を統一的に説明する原始星形成理論モデルの構築を目指している。