ここでは代表的な例として、密度分布が一様な1太陽質量の分子雲コアの 重力収縮とその後の進化の計算結果を紹介する。 より詳細な内容に関しては[8]を参照されたい。
初期の温度分布として、星起源の可視光入射と宇宙線による熱化がダストによる 冷却と釣り合う熱的平衡状態を考える。 この平衡状態はほぼ10Kでおおよそ一様な温度分布を与える。 進化を通じ外部境界は半径10000AUに固定する。 このとき初期の分子雲コアは僅かに重力不安定な状態にある。
図 1: 計算結果(前半)([8]より)。
分子雲コアの重力収縮からfirst coreおよび
second core形成までの進化を示す。太線が初期条件を表す。
(a)温度分布、(b)密度分布、(c)速度分布、(d)質量分布。
図1に計算結果を示す。 進化の初期段階では冷却効率が十分良いためにほぼ等温的な進化を行うが、 中心密度の上昇の結果ガス圧縮熱化率が冷却率を越えたところで 中心温度は上昇を始める。 やがて圧力により支えられた断熱コア(first coreと呼ばれる)が誕生する (図1中の曲線5)。 しかし、中心温度が2000K程度に達すると水素分子の解離が起こり、 解放される重力エネルギーは解離に喰われて温度が十分に上昇できないために、 first coreは重力的に不安定となり更なる収縮を始める。 解離がほぼ終了した時点で再び力学的に安定なコアが誕生し(second core)、 これが原始星の種となる。
図 2: 計算結果(後半)([8]より)。
図1に続いて、誕生した
原始星が質量降着により成長する様子を示す。
(a)温度分布、(b)密度分布、(c)速度分布、(d)質量分布。
図2は、second core形成後ガスエンベロープからの質量降着により
原始星が成長していく様子を示している。
原始星の半径はおよそ程度で、成長過程を通じほぼ一定している。
以上に示した力学進化の様子は、過去の計算例([3], [4]など)
と良く一致している。
図 3: SED(Spectral Energy Distribution)の進化([8]より)。
図中の番号は図1と2に対応
している。
図3にSEDの進化を示す。 進化の初期段階ではSEDは低温(10Kから数10Kの相当するピーク)成分のみを 示すが、原始星誕生後(図中の番号10以降)は次第に高温成分が現れはじめ、 最終段階では近赤外域にまで至っている。 星なしコアからclass 0,class I天体に至るSEDの進化を 良く再現している。
本研究は球対称の理論計算に基づいているが、 実際の天体は回転や磁場の影響のために非球対称的な効果も重要になる。 とくに、回転軸方向と円盤面方向の柱密度の違いから、 同じ天体をpole-onおよびedge-onで観測したときにSEDなどに大きな違いが 現れることが予想される。 この効果を考慮したうえで、観測される原始星天体とその進化上の位置づけを 分類した概念図を図4に示す。
図 4: 原始星天体の分類([8]より)。
縦軸は天体の年齢、横軸は観測者に対する天体の傾斜度を表す。
天体の年齢と観測者に対する傾斜度を縦横の軸として、 星なしコアからclass 0,class IおよびフラットスペクトルT Tauri星までを 統一的に分類することに成功した。 この概念図をより精密化するためには、多次元輻射流体力学による 原始星形成の理論モデル化が必要である。
以上の結果および議論についてのより詳しい内容は、[8]に述べられている。