観測からの制約を満たす、deep mixing の新たなモデルを紹介する (詳しくは Fujimoto, Aikawa, & Kato 1999、ApJ in press )。 組成異常は、従来の恒星内部構造の理論の枠組みを超える、何らかの物質混合機構の存在を指示している。 従来の deep mixing の議論では、内部から表面への核燃焼物の直接的な輸送が問題にされた。 しかし、ここでは、むしろこの物質混合機構による水素の内部への輸送に注目する。 混合の障壁となる分子量の相違は、水素燃焼殻の上層部と外層のみならず、下層部とヘリウム中心核の間でも小さい。 赤色巨星では、水素燃焼殻に組み込まれる際、外層の物質は大きな半径の収縮を受けるが、もし、角運動量があれば、それに伴い、回転が加速され、水素燃焼殻、ヘリウム中心核の外縁部には、微分回転が遍在していると考えられる。 したがって、物質混合の機構としては、微分回転に伴う、sheer 不安定や baroclinic 不安定性に伴う乱流混合が想定できる。 これに伴い、少量の水素がヘリウム中心核の上層部に混合することは起こりうるであろう。 新しいモデルでは、この水素混合を仮定し、その帰結を追究する。
シナリオは以下のようになる。
(1) 乱流によって、少量の水素 () がヘリウム中心核に混合する。
(2) この混合の結果、中心核の周辺部で、水素のフラッシュが引き起こされる。
(3) このフラッシュでは、燃焼殻から外に向かって対流層が発達し、さらに水素を含んだ外層を巻き込み、その水素を燃料として進展する。
対流層の底は、準静的な進化の過程の水素燃焼殻よりも、高温になり、
Mg が反応し、その核生成物が対流層に散布する。
(4) フラッシュの終焉期に、フラッシュ中の対流層が膨張し、そこへ、表面対流層が進入して、ヘリウム燃焼およびフラッシュ中の反応生成物が表面へ運ばれる。
フラッシュを起こすのに必要な水素混合の深さは、高々、数 pressure scale heights である。
また、ヘリウム中心核の上層部での、陽子の寿命は、yr 程度であり、これが、水素フラッシュを起すのに必要な乱流混合の時間尺度の上限値を与える。